水中でのアーク放電による発光実験

 SuperX, Japan  Jan 24、1998


ABSTRUCT

 1998年3月24日、アメリカで英国サウザンプトン大学のマーチン・フライシュマン(62歳・当時)と米国ユタ大学のスタンレー・ボンズ(48歳・当時)という二人の電気化学者が「電気分解によって核融合を起こした」と記者会見をしたという記事が朝刊の片隅に載った。この追試を行なおうと北海道大学工学部助手の水野氏が重水の電気分解の際の電流密度を1平方センチあたり0.2A、このとき電流は6A電圧は4Vにして実験したところ異常な発熱、中性子、トリチウムといった核融合反応が生じている可能性のある現象を確認した。また、この時電極や重水中に黒い生成物を確認している。さらに、水野氏はこのような現象が起きるときには決まって水中で発光現象が起きているという事を1998年11月26、27日に早稲田大学人間総合研究センターにて開催された国際シンポジウムの2日目の新エネルギーに関する講演で述べている。本実験は、水中での発光現象、黒い生成物の謎を解明し、今後の常温核融合、核変換への道を切り開くために実施した。

INTRODUCTION

 水野氏の実験では6A、4Vというかなりの大電流を流している。、また発光現象を観測しているということから、これはアーク放電が生じたのでないかという予測される。そこで、果たして水中でアーク放電は起こるのかどうかという事を実験する事にした。アーク放電は通常のグロー放電とは放電持続のための電子放出機構が異なっており、グロー放電ではイオンの電極への衝撃にによる二次電子放出が主であり、条件によっては電子、光子、順安定中性子などの寄与もある一方、アーク放電では高い電流密度による電極加熱に伴う熱電子放出や原子蒸発などが主となる。グロー放電では二次電子を高電圧で加速して中性粒子と衝突させそのときの衝突電離作用による荷電粒子の倍増が放電を維持する。したがって、電極間電圧には数百ボルトの高電圧と電子の移動速度を維持するためにある程度の真空度を要する。したがって、水中でグロー放電が起こっているとは考えにくい。一方アーク放電は放電機構の違いから大気圧中でも放電が可能である。二次電子を加速する必要は無いので特別な高電圧は不要であり、むしろ電極を加熱するための大電流が要求される。一般にアーク放電を持続するには数Vから数十V、電流はおよそ10A以上くらいが必要である。ところが、水野氏の実験はこの条件よりも若干電流も電圧も低い、したがって、本当にアーク放電だろうかという疑いもあるが、水野氏はこの実験の際に反応を促進するためシースヒーターで重水を75℃に上げているので、これがアーク放電を助けたという事も考えられる。そこで、水中でアーク放電は果たして起こるのかどうかという実験を行なう事とした。

実験方法

 交流アーク鎔接機に家庭用AC100Vをつなぎ二次側電流を最低の設定容量である40Aにセットする。これは鎔接機の性能としては最大100Aまで取れるが家の電流容量が30Aしかないので、安全のため40Aで実験した。また、常温核融合の実験では重水を使うのだが、今回は普通の水道水で実験した。アーク放電の実験だけであるから問題は無いはずである。水はポリバケツにいっぱいいれる。交流アーク鎔接機のアース端子側には25×120mm t=2mmの鉄板を接続し、通常の鎔接棒が接続されるところには、通常の鎔接棒と普通の鉄の棒の2種類で実験を行なった。アーク鎔接機の開放電圧は実測値でAC34.9V、放電が開始されると電圧は下がり仕様ではAC25.5Vとなるはずである。放電の方法は水に漬けたアース側の鉄板に鎔接棒を接触させてアークを開始させ、少しだけ離して放電を持続させる。しかし、電極がくっついてしまって、これがなかなか難しい。

FIG.1.

交流アーク鎔接機

FIG.2.

鎔接機の開放電圧

FIG.3.

大気中での放電テスト

FIG.4.

普通の鉄の

棒での水中放電

FIG.5.

電極固定で

の連続放電テスト

FIG.6.

放電後の鉄板

使用機器 

交流アーク鎔接機: 可動鉄芯型交流アーク鎔接機 RedGo120 形式SSY-121R スター電器製造株式会社

CONCLUSIONS

 水中でアーク放電による発光が確認された。放電に用いた電極はアース側が鉄板、もう一方は鎔接棒と鉄の棒の2種類で実験し、両方とも発光を確認した。放電の後、黒い反応生成物が水中に黒いインクを垂らした様に漂った。放電部分の鉄板を見ると黒くなっている。これは、鎔接棒と鉄の棒の両方で観察された。鎔接棒の方は、ほんとに真っ黒くなったがこれは、鎔接のためのペーストが放電で黒く炭化した事が予想される。しかし、鉄の棒でも色は薄いが黒くなった。これは鉄の棒の不純物が炭化したのだろうかそれとも、これが核変換なのだろうか。いずれにしても不純物の無い電極で再確認する必要がある。なお、放電部の鉄板は溶けて蒸発したのか凹んでいる。FIG.6.の下部のほうの凹みは水中での放電によるものである。上部は大気中での放電によるものである。連続してアーク放電を持続させようとFIG.5.のように2枚の鉄板を近づけて設置したが、放電を開始させるためには一度2枚の電極を接触させてから数ミリだけ離す必要があるのだが、電極を接触させて放電が開始すると、電極同士がくっついてしまい、簡単な固定ではうまく距離を保つ事はできない。したがって、もっとしっかりした固定方法を考える必要がある。

 

参考文献

核変換 常温核融合の真実 水野忠彦 工学社

レッドゴー120取り扱い説明書 PDF 252KB